= 表 具 ・ 表 装 の 手 順 =

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=このページでは、「掛軸」を例に、表具製作の過程のあらましを略記しています=

 必ずしも手表装にこだわらない現代、なるべく専門的な冗長さは避けた積りですが、或いはつい細かくなってしまったかも知れませんが、本来の手表装に於ける、技術と姿勢の関わり方の一端でもご理解いただけるなら幸いです。


【受注・確認】

[用途・目的・仕様・程度・傷・汚損・納期等々の確認]
  • ごくごく当然のことですが…表装の形式や程度は千差万別です。展示する場所(床の間・壁・展覧会場…等々)や壁面の色・広さ等によっても形や色合いが変わります。 また、修復や浸み抜きの要・不要、及びその“程度”の確認等々、依頼者と表具師双方で確認すべきことは多々あります。
  • 先ずは依頼者の目的や好み、表具師の専門的な意見を併せてこれらを確認します。これは“技術”以前の、しかし、良い結果を得るための依頼者と表具師双方の、“もうひとつの技術”だと思います。


【取り合わせ】

 [形・寸法・色柄の取り合わせ]
  • 受注時の目的に添って、布地・表具形式・各部寸法等を考慮しながら作品に最も適した色や柄の布地や寸法等を取り合せます。 ほんの少しの濃さの違いでも見た目が大きく変わりますので、色々な布地を実際に作品に宛がって決めます。
  • 寸法も、やはりちょっとした違いで見場が大きく左右されますし、同じ条件でも、布地の柄や色によっても 「見た目」 での寸法が変わります。これらを併せて考慮しながら取り合わせを決めていきます。
    (※)一般的には同系色の取合せが落ち着くものです。反対色はアピール性には富むが、間違うと・・・。


 [裂取り]
  • 取り合わせが決まったら布地を裁断します。この時、柄物は柄の出し方や位置を考慮しながら(柄合せ)必用な大きさに裁断します(裂取り)


 [縮み・墨止め]
  • 裁断した布地(本紙が絹本等の場合も)に、後の無用の引き攣れを避けるため、霧を吹いたり湯通しをして縮みを入れます。

  • 本紙には、絵具・墨止めを施します。墨止めは、簡単な方法としては全体にドーサ(※)を吹きかけますが、紙や墨の状態によっては文字や絵具の部分だけを墨止めします。
     (※)墨止めには化学薬品もありますが通常はドーサ液を使います。これはニカワに明礬を加えた液体です。
     (※)ドーサは全体に引く場合も部分的な場合も、ムラとニジミの防止のため濃度の薄いものを数回に分けて引きます。


【以下、[本紙修復]の頁の記述と一部重複しますが順を追って説明します。古書画の本紙修復に付いては 同頁 をご覧下さい。】

 【紙取り】

  • [用紙の選択]…裏打ち前の段取りです。表具の目的に応じた和紙を誂えます。和紙はその紙質・厚味等、種類が極めて多様です。その中から適当な品質・厚味の和紙を、本紙と布地の裏打ち用に調製します(紙取り)表具の工程の中で、この用紙の選択は、糊とともに極めて重要な部分です。


  • [紙誂え]…裏打ちをする場合、和紙の大きさは決まっていますので、長いものを裏打ちするには途中で継がなければなりません。予め継いでおいた紙で打つ場合もありますが、打ちながら継いで行くのが普通です。
     (※)和紙は強度と引きの視点から通常は縦使いが原則。事前にそれぞれの紙の特性を知ることが必要です。

  • 表に滲みの響き易い布地や絹本の肌裏には、通常棒継ぎという継ぎ方をします。これは普通に断った双方の紙をごく細く重ねて打ちます(図右)。表に滲みの響かないものは、通常、食い裂き(※)という、双方の紙の継ぎ端に毛羽を出した紙の毛羽の部分だけを重ねて打ち継ぎます(毛羽継ぎ)(図右)。これは、継ぎ目の重ね部分の厚くなるのも防ぎます。
    ・・・これらを必要な分、誂えます。
     (※)「食い裂きの方法」や、次項本紙裏打ちの古い本紙の場合等は、[本紙修復]を参照下さい。


【肌裏打ち】

 [糊調製]
  • 特に本紙肌裏には必ず自然糊を用います。現在は合成糊が多く普及していますが、本紙に滲み込んだ合成糊は本紙自体を変質させます。 自然糊は使い難いという迷信がありますが、使い方さえ知れば、本来の自然糊の方がずっと楽で綺麗に仕上がります。この糊の選択は非常に大切な部分です。
  • 糊は、通常は紙本本紙は薄い水糊で、絹本や布地はやや濃い目の糊で打ちます。但し、選択とともに、言葉では説明できませんがこの糊の濃度は表具の懸かり具合の良し悪しに極めて重要な要件になります。各裏打ち(肌裏・中裏・総裏)ごとに微妙に調整をします。



 【裏打ち
    [本紙裏打ち][本紙修復]参照)
  • 本紙は敷き紙をし、裏返して予め軽く霧を吹き、全体を平らに馴染ませます。伸びたら刷毛で軽く裏打ち板に空気を追い出すように(矢印方向)伸し付け、裏打紙に糊を引き、こちらを持ち上げ(※1)反対側を本紙に宛がって撫で付けます。 打ち継ぐ場合、前述の毛羽の場合は毛羽部分同士を、棒継ぎの場合はごく細く重ねて打ち継ぎます。
  • 打ち終えたらそのままの状態で、周囲に糊を付け、表が見えるように(※2)仮張りに張ります。

    [布地裏打ち]
  • 布地もやはり軽く霧を吹き、やや濃い目の糊で打ちます(濃さは布地によって変化)。霧の吹き過ぎや糊の付け過ぎはシミの原因になります。
  • 布地は糸目を正します。これを雑にすると柄が歪みます。布地の種類によっては、撫で付けた後、刷毛先で打ち込まなければいけないものもあります。
  • 布地は、通常裏打ち紙を表にして仮張ります。別途に糊を付けずそのまま仮張れます。
    (※1)特殊な場合、本紙に糊を引く方法もありますが通常は行いません。
    (※2)裏返して張ることも場合によってはありますが、通常はこの張り方が正しい方法です。
        …※1・※2とも本紙保護のための仕方で逆の仕方は極めて特殊な場合に限られます。

    (※)糊の濃さは、最終的な仕上がり具合と保存に大きく拘ります。 特に軸や巻子は反りや折れの原因になります。
  • 裏打ちは本紙も布地も、裏打ちした後、良く乾燥させます。


 【増し裏打ち】
  • 一度裏打ちしたものを、「厚味」や「引き」の調整のため、必要な部分を更にもう一度裏打ちします(増し裏)。この場合の糊は水糊を使用します。
  • 修復した本紙の場合は、ここでも折れを確認し、必要なら折れ当て(力紙)を施します。


【断ち合せ・切り継ぎ】

 【断ち合わせ・糊止め】
  • 裏打ちが乾いたら本紙と布地を必要な寸法に断ち揃え(断ち合わせ)ます。
  • 本紙はまず長手の余白の少ない側を断ちます。幅を合わせもう一端を、更にカネ(直角)を合わせて 短手の両端を断ちます。 この際本紙の歪(いびつ)なものは後の糊代を考慮し、裏打ち紙を少し残します。
  • 布地は、一文字・柱・中の上下・天地・その他付属部分(筋・明朝他)ごとに所要の寸法に断ち“糊止め”を施します。これは裁断部分にごく細く糊を引き、ほつれを止めるための方策です。
    布地はその引きの程度によっては部分的な“折れ縮み”を施します。
    (※)糊止めは、固い糊で横から宛がうようにして、表にほんの少し廻るように付けます。


 【切り継ぎ(付け廻し)・耳折り】
  • 本紙と布地の準備が出来たら各部分を継いで行きます。これを “切り継ぎ”(=付け回し) と言います。
    順序は 「本紙に近い部分から」 が原則で、通常、一文字 → 柱 → 中の上下 → 天地 の順になります。
  • この際柄を合わせることが必用です。通常は右上と左下を主眼に合わせますが、目立つ柄や大柄の場合は、四方合わせ、又は中心合せ等、仕上がった時のバランスを考慮します。これは裂取りの段階から必要なことです。
  • 切り継ぎ終ったら “耳折り” を施します。これは両端の補強と、巻く時に本紙が擦れて磨耗するのを防ぐ二つの目的があります。
    従来は、表具の幅に狂いを生じさせない為、次項の中裏の後に耳折りする方法が普通でしたが、現在は種々の観点から、本文の順序でこの段階で耳折をしていますが、ちょっとした技術の工夫で、何ら問題はありません。
  • 更にここで、裏打ちの糊代となる部分の補強の為、耳折の部分に6〜7分幅の “張り手” を付けまが、耳折りの部分は布地が裏に折れ曲がっているので、その部分には固い糊を付け接着を確実にします(耳糊)
  • 張り手 は、一義的には裏打ち紙の張り切れを防止するための補強ですが、のみならず、後で耳を剥く時 “きれいに剥く” ための補助にもなります。 張り手 は “喰い裂き” にして耳に毛羽部分だけを張ります。


【中裏・総裏打ち】

 【中裏打ち】
  • 次の総裏と、仕上がりの厚味を勘案しながら、ここで調整の為の裏打ちをします。紙の厚味や糊の濃度を決め、夫々を調製します。この場合の糊は水糊です。中裏には厚味の調整の他に “透け止め” の意味もあります。
  • 中裏や総裏は本体が大きいので食い裂きで打ち継ぎます。ここでは、裏を打ち終えたらすぐ、布地の継ぎ目の段差部分をヘラで押し込み、密着させます(ヘラ入れ)。これをやらないと後日ここが浮き損傷を早める原因にもなります。
  • そこまで済んだら一旦裏返し、表が見えるように置きなおし、本紙のケバ立ちを抑える “毛羽伏せ” や、布地の滲みを散らします。 そして廻りに糊を付け、今度は “表が隠れるように裏返して” 仮張ります。
    (※ 布地の場合もそうでしたが、裏打ちするものが厚い場合は乾燥時の端の捲れを防ぐため裏返して張ります。)

  • 当然ですが、中裏もよく乾かします。乾いたら剥がして次の総裏の前に、軸と八双を挿げる“軸袋(八双袋)”を張り付けます(袋付け)。 糊代は細く、端も仮止めします。

    ※布地の厚味によっては中裏の前に付けることもあります。
    ※中裏を付さない場合も張り手は要しますので、袋と同時にここで付けます。


 【総裏打ち】
  • 最後の裏打ちを総裏と言います。ここも糊や和紙を、厚味を考えて調整するのは他の裏打ちと変わりません。
  • 総裏は、巻いた時表に出る上部は、薄い絹を裏打ちした布で裏打ちします(上巻き)。これは手で触っても毛羽立たないようにするためです。 他の部分は中裏と同様に打ち、軸袋の付け際を上巻きと同布で補強します(軸助け)
    (※)軸助けは表に糊を付けて張り、裏打紙を剥がします。厚味が勝ると表に響いたり、却って脆さが出たりします。

  • 糊、打ち方、仮張り方は中裏に順じます。ここでもヘラを入れます。


 【四季通し(乾燥)】
  • 総裏もよく乾かします。乾いたら一度剥がし、弛みをつけて張り直します(返し掛け)
  • この後更に何回か、乾燥、加湿等を繰り返し、糊や紙の性を安定させます(四季通し)
    従来は仮張ったまま長期間放置して紙や糊を安定させていましたが、現在は乾燥機等が利用できますので、短期間に色々な条件を設定して従来以上の諸条件を通過させることが出来ます。



【仕立て】

 【仕立て】
  • まず前準備として 軸挿げ や 八双・風帯 等の調製をします。
    [軸挿げ] は、軸棒に軸先を挿げます。懸け物の内容や表装に合った色や形を取り合わせます。
    [八双] も、表具を考慮し、相応しい形に削り、両端には上巻きと同布を張ります。
    [風帯] は、基本寸法を基に、表具形式に応じた寸法・形を調製します。チリの出し方、露の色・大きさで見栄えが相当変化します。
  • 付属品が調整できたらいよいよ仕立てます。表具を仮張りから剥がし、 裏擦り と 耳剥き をします。
    [裏擦り] とは、懸け物を柔らかく巻き癖をつきにくくするため、数珠等を使い、予め細かい均等な横目の筋をつける作業です。裏擦りする事で、横にはピンと、縦には柔らかい、感触の良い軸になります。
    [耳剥き] とは文字通り耳を剥く、張り手部分を取り去ることです。同時に軸袋・八双袋の始末もし、切り口は糊止めや複輪処理をしておきます。
  • 仕立てる順序は、先ず八双を付け、次に軸を付けます。乾いたらカンを打ち紐を付ければ仕上がりです。
    ※風袋がある場合は、先に付けるとカンを打つ時緩むのでカンを打った後に付けます。
  • 仕上がったらもう一度裏擦りを施し、耳折りの部分をヘラで扱いておきます。これは耳の部分が引きが強いため、後々中弛みになるのを防ぎます。


 【収 納】
  • 仕立て上がった掛け軸をしまう場合、桐箱が最適です。保管の方法は本文に書きましたが、紐を巻く場合、少し厚めの紙を紐を巻く部分にあてがっておくと(紐当て)、紐擦れと、締めすぎの防止に大いに役立ちます。







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